アスカさんは、ベスの最初の子供で、
おばあさんのうちで生まれた最初の子犬だ。
子犬のころから、おばあさんの世話になっている。
ずっと、おばあさんに育てられてきた。
そして、お産もした。子犬は死んでしまったけれど。
リュイは同期生であるが、仲が悪かったようだ。
なんか設定された環境から思うに、それもうなづける。
アスカさんは、サツマイモとかあげると、
さっと、それを持って、部屋の隅とか、
小屋の中へ持っていってしまう。
そして、右をみたり、左を見たり、後ろをみたり、
少し上目使いに見回す。
こそこそっと周囲に警戒しつつ
サツマイモをさささっと食べる。
ソーラさんは、どこへも持ってゆくことなく、
のんびりといただいている。
このことからも、アスカさんの育った環境のワイルドさがうかがえる。
基本的に、犬というのは、
こうじゃなくちゃーいけないんじゃないかと思う。
ソーラさんも少し、そういう所で、
鍛えてもらったらいいんじゃないだろうか?
「ここの犬たちはのんびりしているねー」
とおじさんも言っていた。
アスカさんのように、さささっと食べ物を隅のほうへもっていっても、
リュイは口の端から出ているところを
ひょいとくわえて、他の犬から奪い取るのだという。
なかなかワイルドだ。
アスカさんは、そのようにワイルドではあるが、
なつかしいふるさとをはなれてウチへやって来た。
ずーっとお世話になってきたおばあさんと
お別れして、ウチへやって来たのだ。
おばあさんと、今日、こうして会うのも、
本当に久しぶりのことだ。
おばあさんは1階の部屋で休んでいる。
散歩へゆこうと紐を付けて2階から、
ソーラさんとアスカさんを抱えて階段を下ろす。
階段をおりると、アスカさんは、
休んでいるおばあさんのところへ飛んでゆく。
すごい勢いで飛んで行くので、
紐をもっているわたしはついてゆけない。
紐がピーンとはっている。
アスカさんはおばあさんの腕にすっとんで飛び込む。
「クークー」と懐かしそうになく。
アスカさんは、散歩にも、もう行きたくなくなったみたい。
今日は、もうお別れの朝である。いい天気だ。
おばさんが、みんなの朝食を作ってくれている。
おばあさんはイスに腰掛けて、ソーラさんとアスカさんを抱いている。
アスカさんは、懐かしいような、安らいだ表情だ。
食堂のカーテンを開ければ
窓からは、明るい朝の光がさしこんで来る。
部屋の観葉植物も、気候があたたかくなり、陽射しを受けて、
緑が透き通るようにもえはじめている。
朝の風もさわやかだ。
おばあさんの腕のなかで、
アスカさんは子供の頃を思い出しているかもしれない。
車で、途中まで見送りに出た。
別れのとき、去ってゆくおばあさんを追いながら、
アスカさんは寂しそうにないた。
アスカさんは、次の瞬間、わたしを見上げた。
「アスカ、お前は、ここにいるんだよ」
沼のに沿った遊歩道には、
連休の一日を楽しむ人たちが、のんびりと通り過ぎてゆく。
(おしまい)
(2002年5月上旬)
(このページで流れている曲は「Cherry blossoms」です。まき犬さんの曲を使わせていただいています。移り行く季節をなつかしく歌っています。聞いてみてください。)
ソーラさんの提案
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