「 五月の風 」

                    


 すっかり初夏となった。

 今週はあまり、ソーラさんとアスカさんのお散歩へ行ってあげていない。
今日と明日そして明後日と三連休だ。のんびりしている。
ほんとにのん気な一日だ。

 きのうは、ちょっと遊びに行った。ビールを飲んだ。
だから、今日は、少しからだがおもい。
 朝ものんびりと、10時頃までゴロゴロしていた。

 「こりゃまずいな.」
と、起きてきて、顔を洗って、水を飲んで、
そしてまた、お湯を沸かして、コーヒーを入れて飲んだ。

 ビールを飲んだ翌日は、だるくなる。
寝る前とか、水分をたっぷり取っておくと、早くだるさが抜ける感じがする。
 もしこれを読んでくれているのが子供さんだったら、あまり関係ないけれど。
 
 歴史をさかのぼった大昔から、
人は、そんな風に人生のひと時をたのしんできたので、
大人になってから、ぜひやってみてください。
 子供の頃は、勉強もあるしね。

 そういえば、今週は、夜いろいろ用事があって、帰りがおそっかったから、
彼女達の散歩へいってあげていない。
 いかにもこれまで、毎日散歩へ行ってあげているように書いてきたけれど、
けっこう、ほったらかしのときもある。

 帰り着いて、彼女たちがしずかなときは、しめしめと、
彼女たちをベランダへ出さずに、わたしは、
そのまま自分の部屋へ入ってしまうこともある。
 
 そうしていると、しばらくしてから思い出したようにソーラさんが突然、
「ウー、ワン」
と抗議の声をあげたりする。

 「ドキッ、うっ、ばれたかな」。
 それで、遅まきながらベランダへ彼女たち出す。
おしっこを済ますようだ。ホっとしたようだ。
 
 それで、すぐ家のなかへ入れてゲージへ入ってもらおうとすると、機嫌が悪くなる。
 しばらくそうしていたいようだ。
五月の夜は、それほど寒くもなく、彼女たちにとって気持がよいのだろう。

 家の中へ入れて、申し訳程度に遊ぶ。
膝をついて正座をすると、ソーラさんとアスカさんが我先に駆け上がってくる。

 ちょっと遊んでゲージに入れようとすると、やはり機嫌が悪い。
もうすこし、部屋の中をウロウロしたいようだ。
わたしは、早くねたいんだけれど。

 それで、コーヒーを一杯入れる間、自由に部屋の中を歩いていてもらう。

 お湯を沸かし、コップにフィルターを載せて、ドリップ用のろ紙を折り曲げて、
フィルターにセットして、大さじで一杯コーヒーの曳いた豆を入れて、お湯を注ぐ。
少しむらして、というが面倒なので、待たずにどんどんお湯を注いでゆく。
 寝る前なので薄いほうがいいかも。

 そんなことをしていると、コーヒーを一杯飲むだけでもけっこう時間がかかる。
15分近くかかる。ゆっくりと飲んでと。
 彼女たちは、その間、自由に部屋の中を歩き回ったり、
わたしの前に来て、何かおいしいものはないかと、
そんな、目で見ていることもある。

 コーヒーを飲み終わると、さて、小屋に入ってもらおう。
しぶしぶ、ゲージの中へ入った。

 「今日も、散歩なしか。チェッ、つまんないの、あんまり遊んでもくれないし」。
といっているようである。

 また、もう眠ってしまったようで、何のクレームもつかずに、
ゲージの中がやけに静かなこともある。
 きっと、遅くまで、おふくろさんかおやじさんに遊んでもらっていたのだろう。
それはそれでちょっと、どうしたのかなと思うが、まあ、疲れているので、
わたしは寝てしまう。

                (つづく)

     

  ビールを飲んだ翌日。さてと、朝も10時を過ぎて起きだしてきた。

 そうそう、彼女たちのお散歩へ行こう。
顔も洗った、コーヒーも飲んだ。洗濯物も、洗濯機へ入れてまわし始めた。
観葉植物の水やりもすんだ。
 のん気な、そして大切な休日である。
 やっと、お散歩へ出発だ。
「早くしてくれよね。まったく、もー」
 といっているかも知れない。

 外へ出た。天気もいい。風もさわやかな、五月の風。
すっかり季節は変わっている。
 そんな久しぶりにお散歩へ行くというわけでもないが、 
なんとなく今日はそんな風に感じた。五月の連休なのである。

 いつもの公園へ歩く。
 この前はサクラが咲いていたが、もうすっかり感じが違っていて、
芝の雑草は伸びて、ボリュームをまして茂って来ている。

 サクラの花の後の柔らかな葉も、今はだいぶ厚みをましてたくましく茂っている。
他の木々もたっぷりと葉っぱを増やして茂ってきている。
この前までこんなだったかな。
はっとする。緑がぐぐっと勢いを増しているのだ。
 夏の体制に突入している。

 風がほんとに気持いい。
ほほを撫でる風って感じ。
耳のところでヴオンとなっている。

 鳥のさえずる声が聞こえる。
いく種類も聞こえる。
ぴーとか、ちちちとか、キュルルルルとかにぎやかだ。
 ベンチの人の話す声やどこかで子供の遊ぶ声も聞こえる。
遠く車の走るシューだかゴーだか、低く聞こえてくる。
今日は野球の試合がないのでグランドが静かなのだ。
耳をすますといろいろな音が聞こえて面白い。
耳にあたる風の音に混じって聞こえてくる。のどかだなー。

 少し前まで、枯れ枝同然のサクラも、ボリュームをまして一気に葉を茂らせている。
葉っぱは、もう厚くなって、虫に食われて穴だらけだ。
 梅の葉っぱはサクラより小さくて、丸みがある。
葉脈の入りかたもサクラとだいぶ違う。やはり虫にくわれている。
 さくらよりも、なんだか梅の葉っぱは、古くて汚れて見える。
なぜか梅は、葉っぱまでワビとサビの世界なのかのしれない。

 ど近眼のわたしは、ときどき思い出したように、変なものを熱心に眺め回したりする癖がある。
 当たり前のことなのだが、まじまじと見ていると、
 「へーこんなんだったのかな」
と思うことがよくある。

 梅の木の根元に、茎の長い先にボールの付いた様な花があった。
シロツメ草って、あの花輪とか子供のとき作ったやつだったかなー?
 その葉っぱ、三つ葉みたい形なんだけれど。
花はいい香りがする。
 この花を折る。茎の長い先にボールのような花。
孫の手の肩たたきするやつみたい。

 その花の咲いている三つ葉の葉っぱの草むらに、
アスカさんが鼻先を突っ込んでいる。
 孫の手のようなその花で、アスカさんの頭をちょいちょいとたたいてみた。
ふわふわしているので気付かないかもしれない。
アスカさんは顔をあげて、花の匂いをかいでいた。

 ふざけ半分に繰り返していたら、アスカさんは困った顔をしている。
困ったとき、どう出るか意地悪なわたしはみている。
でもけっこう飽きずに花の匂いをかいでいた。
目を細めてとても気持よさそうだ。
 
 ソーラさんの頭も、その孫の手のような花でたたいてみた。
やはり花の匂いをかいでいた。
 繰り返すとすこし困った顔をして、でも、またすぐ、三つ葉の草むらへ鼻先を突っ込んだ。
 ソーラさんは、アスカさんほど、暇なご主人に付き合ってはくれない。
二匹のミニダックスのこげ茶色の毛並みが、陽射しにつやつやと輝いている。

 中学校のフェンスには、松、もみじ、その他、たくさん木がしげっている。
ずいぶん大きな木になっている。 
しげしげとみると、松は松なりにカッコよく、もみじはもみじなりにカッコいい。
つつじやさつきは、もう花がしぼんできている。

 五月の風に吹かれてほんとに気持がいい。

 風がなかったらきっと暑いと思う。

そして家い帰り着いた。

         ( おしまい )
                        (2002年5月上旬)

 (このページで流れている曲は「君との季節を永遠に」です。YUKITOさんの曲を使わせていただいています。目を閉じて聞いてみてください)

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