「 うさぎとかめの大決戦 その六 」
(走馬灯)



 秋風の丘からの、このなだらかな坂道を下れば、‘向こうの小山のふもと’である。旗が一本立っている。

 あの審判さん(くちばしの長い、長生きのー鳥さん)がきっとあのくちばしで運んでいって立ててくれたんだろう。

 なだらかな坂道。ぴょンぴょンぴょンぴょン……。
もう、息が弾むこともない。

 うさーラさんは、ここまでやってきた。ここまでくればもう大丈夫とも思わない。それは油断につながることを知っているからなのである。

 もうアスかめさんがどこにいても気にならない。
一歩一歩最後の瞬間まで、歩みを止めないことである。

 ぴょンぴょンぴょンぴょン……。
一歩一歩確実に、うさーラさんは、坂道を下ってゆく。

 旗が見えてきた。



 おとうさんとおかあさんはいつも言っていた。きっとかめに勝っておくれ……。

 かめに負けてから、うさぎのご先祖たちは、落ちぶれた人生を歩んできた。人々のさげすみの声、冷ややかな視線。貧しさがそれに拍車をかけて。打倒かめの一念だけがそれを支えてきた。
 かめに勝つために、両親はきびしくもあり、またやさしくもあった。そして、いろいろ伝授してくれた。それがときにうさーラさんにはつらくもあった。しかし、それもかめに勝つためなのである。
 もう少しでこの運命とも決別出来るのである。かめさよならバイバイって感じ。
 
 そんなことが、走馬灯のように頭の中をよぎっていった。
 それは、ほんの一瞬のような気もするし、実は、何時間も時間が過ぎたような気もする。


 そう、はやく顔をあげて前を見なければならない。

 まだ。勝負はついていないのである。
いや、これからが本当の勝負だということを、実はうさーラさんは知っているのである。
 それは本能的なものかもしれない。

 実は、うさーラさんの前にもここまでたどり着いたうさぎが一人いた。うさーラさんのおじいさんかな? しかし、勝てなかった。

 そのことは、何を意味するのか!
自分自身の心との戦いを乗り越えさえすれば、この戦いに勝てるのだろうか。以前ここまでたどり着いたうさぎがあるということは何を意味するだろう。それは、心の戦いに勝ってなおまだ越えられない何かが、乗り越えなければならない壁が、そこにあるということを意味しているんである。

 そう、それは何だろう。それを確かめて後世にに伝えなければならない。もし勝てないにしても……。

 実は、うさーラさんのには、ここにいたって、なお、アスかめさんに確実に勝てるという気持ちがまったく湧いてこないのである。

 そう、うさーラさんには、分かるのである。

 あの、がっちりとした身体、いつもペースを崩さない平常心。
昔のうさぎたちが、けして勝てる相手ではない。

 そう、アスかめさんは、実は強敵なのである。それに、そもそもが気づかなければならないのである。
 それに気づいてみれば、負けて悔しいと思うほうがおかしいのである。

 この何代にも渡る決戦の中で、実は極秘事項ではあったが、かめ強敵説は研究されてきたのである。
 そう、そう簡単に勝てる相手ではないのだ。

 やはり、そうだった。